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ガジュマルの樹との出会い

昨年沖永良部島に赴く機会を得た。沖永良部島は鹿児島県と沖縄県の間に位置する隆起サンゴ礁の島で1万4千人ほどの人たちが日々の暮らしを営む。観光地として大きく脚光を浴びているわけではないが若い世代にはケイビングツアーが人気で神秘的な鍾乳洞や手つかずの洞窟内部の様子はたびたびマスメディアなどで紹介される。

沖永良部島には鍾乳洞と並んで降り立った人が必ず訪れる観光スポットがある。空港から車で10分ほどのところ。日本一大きいガジュマルの樹が客人を迎えてくれる。ガジュマルの樹は大地にしっかりと根付き青々とした枝葉を生い茂らせている。その堂々たるいでたちは見るものに大きい感動を与えてくれる。このガジュマルの樹。実は小学校の校庭の一画にある。小学校の正門脇には「どうぞご自由にご覧ください」という案内が出ている。この地では子どもたちの学びの場が訪れる人を拒まず分け隔てなく開放されている。校舎からは時おり子どもたちの元気な声が聞こえてくる。伸びやかな空間の中での穏やかな時の流れ。ガジュマルの樹の下で至福のひとときを過ごすことができた。

翻って多くの人が暮らす都会でこのような情景を想像することはできるだろうか。用務のない人は小学校の敷地内へ立ち入ることはできない。校舎にはいくつもの監視カメラが設置され厳重な監視を行うことで子どもたちの安全が守られている。都会の小学校で沖永良部島とは全く異なるこのようなリスク管理が行われているのはどうしてなのだろう。もう20年以上も前になるがある小学校で突然思いもよらぬ凶悪事件が発生したことが記憶に蘇る。

犯罪の発生は時として地域社会の在りようや佇まいを変化させる。同様の犯罪被害に遭わないようそれまで当たり前だった住民の行動に枷を掛けなければならないこともある。確かに犯罪被害を未然に防止するうえでリスク管理や合理的な行動制限は必要な措置の一つであろう。しかしそれによって私たちの心の自由や豊かさが損なわれることはないのだろうか。ガジュマルの樹との出会いからそんなことを思った。 (阿部政孝)

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