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スケアード・ストレイトとEBP

EBP(Evidence-Based Policy)ということばをきいたことがあるだろうか。日本語にするとエビデンスに基づいた政策となる。今の時代当たり前であるはずのエビデンスに基づいた政策であるが、残念ながら日本の犯罪分野ではあまり普及していない。犯罪対策が議論されるのは重大事件が発生した直後が多い。マスコミを中心に加害者に対する怒りや事件を防げなかった政府等に対する憤りを発端に感情的な議論が巻き起こるため、厳罰や監視の強化、又は道徳教育といった常識に基づいた対策が取られがちである。

ここで紹介するのは、こうした常識に基づいて(全米で)行われている非行少年処遇プログラムとその効果を検証したエビデンスである。このプログラムはスケアード・ストレイトと呼ばれている。非行少年を、凶悪犯罪者が収容されている刑務所に連れて行き、受刑者の中に少年たちを放り出し、非行の先にある具体的な現実(過酷な刑務所生活や未来の自分かもしれない受刑者)に直面させ、自らの行為の問題性に気づかせ、反省させることで更生を促す反面教師プログラムである。筆者も少年刑務所の覚せい剤離脱指導でスケアード・ストレイトの手法を使ったことがある。覚せい剤依存を甘く考えている初犯の受刑者に、覚せい剤をやめられず何度も受刑していた累犯受刑者の話を聞かせることで、覚せい剤の持つ恐ろしさを自覚させる試みである。実際にやってみると初犯受刑者の態度が一変するなど劇的な効果が表れた。

エビデンスは無作為比較対照試験(RCT)によって作られる。非行少年を無作為に実験群と統制群の二つのグループに分けて、実験群にはスケアード・ストレイトを受けさせ、統制群には何もせず、数年後の再犯率を比較するのである。全米各地で実験が行われ、その結果をまとめた系統的レビューが公表された。エビデンスが示した結果は、常識に反してスケアード・ストレイトは再犯率を悪化させてしまうということであった。エビデンスは、その理由を説明してはくれない。しかし、よく考えてみれば、「あんな風になりたくない」という反面教師には、そうならないための具体的な道筋(選択肢)が何も示されていない 。これまでのエビデンスで効果が確認された対策の多くには、犯罪から離脱するための具体的な行動の選択肢が示されていることが多い。エビデンスが示したのは、罪を反省するだけでは人は更生できないということなのである。(浜井浩一)

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