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おとなの万引き

矯正での仕事を始めて数年経ったころ、米女優のウィノナ・ライダーが米デパートのサックス・フィフス・アベニューで洋服を万引きして捕まったという報道があった。女優として高い評価を得ていて、もちろんお金には困っていないはずの彼女が、なぜわざわざ万引きを?と驚いた。

その後、万引きをした色々な人に尋ねてみると、「お金がなくて、将来が不安で」、「先輩に命令され続けていて辛くて、もう捕まってもいいと思って」、「酔っぱらっていて、気づいたら店の外に出ていて」、「みんなやっているし、別にいいかなと思って」など、ある程度の納得感のある説明を聞けることがある一方で、ウィノナの場合と同じように「だからといって、一体なぜ?」という謎が残るままのことも少なくなかった。

お金に困っているわけでもないのに万引きを繰り返し、止められないとなると、「クレプトマニア」などの診断がつくこともあるだろう。だからといって、「そうか、病気だったのか、じゃあ理由がわからなくても仕方がない」となるかというと、そうではない。クレプトマニアは、ある日突然ウイルスのようなものが取り付いて、発症するわけではない。そこには何かしらの理由と背景があって、クレプトマニアと診断される状態に陥っていると考える方が普通であろう。

ストレスとか、将来への不安とか、色々な説明がなされるが、どうも腑に落ちない。ウィノナの場合は、事件の少し前にジョニー・デップと別れたとか、親友だった女優に映画の主演をとられたことがショックだったとか、それらしきことが噂されたが、だからってなぜ万引きをする必要があったのか、合点がいかない。

そんなある日、おとなになってから万引きを繰り返していたある女性が教えてくれた。

「私の人生は、子供のころからひどいことばかりだった。貧乏くじを引いて、損ばかりして生きていた。そろそろ私だって、得をする権利があると思う。万引きに成功するたびに、良かった、得をした、これまでの損が少し減った、と思ってほっとする。」

なるほど。

この説明に、ようやく合点がいき、万引きの本質の一端を理解できたと感じた。
彼女にそう教えてもらったので、次から会う人の話は、もしかしたらそういうこともあるのかもしれないな、と思いながら聞いている。
非行犯罪臨床は、こうした合点の蓄積で成り立っている。(朝比奈牧子)

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