コラム
犯罪の原因は「心の問題」か?
みなさんは,犯罪の原因は?と聞かれた場合にどのようなことを考えるでしょうか。
犯罪の原因について考えた時に,「心の問題」では?と考える人が少なくないかと思います。果たして本当に「心の問題」として考えて良いのかについては一度立ち止まって考える必要があります。
たとえば,スポーツを例に考えてみましょう。野球をしている人が変化球をうまく投げることができないといった場合に,いきなり「心の問題」に原因があると考えるでしょうか?多くの場合,まずはボールの投げ方を確認します。これは,適切な投げ方を身につけていない,あるいは誤った投げ方を身につけてしまっていることを想定しています。その上で,ボールを投げるために必要な筋力等の体のバランスや,試合という緊張場面において失敗してしまうなどの「心の問題」を考えていくことになります。もしかしたら,緊張場面に失敗しやすいのは,生い立ちの中でそのような学習(あるいは未学習)をしてしまったという背景(学習歴)があるかもしれず,再学習の機会提供が必要になる可能性もあります。
犯罪も同様に,性的な問題といった罪を犯した場合に,性的な問題を起こした状況を精査し,適切な行動を身につけていない,あるいは誤った行動を身につけてしまったということを確認します。その上で,適切な行動をとるために必要な持ち物や身だしなみ等の準備状態や,事件を起こしやすい場面において気持ちを抑えることが難しいなどの「心の問題」を考えていくことになります。もしかしたら,気持ちを抑えることが難しいのは,生い立ちの中でそのような学習(あるいは未学習)をしてしまったという背景(学習歴)があるかもしれず,再学習の機会提供が必要になる可能性もあります。
このような考え方は,認知行動療法と呼ばれる心理療法の考え方で,問題が生じた状況と問題行動に関する一連の流れを分析するといった「機能分析」に該当します。認知行動療法は,わが国で初の心理職の国家資格を定めた公認心理師法の成立過程において,司法・犯罪分野における公認心理師の実施する支援方法として明文化されました(厚生労働省,2017)。「心の問題」を丁寧に扱いながらも,一度立ち止まって,今起きている問題の解決に必要なことをあらゆる角度から考えていくことがあらためて求められているのかもしれません。(野村 和孝)
[引用]
厚生労働省(2017).公認心理師カリキュラム検討会報告書 厚生労働省 Retrieved from http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000169346.pdf