コラム
公認心理師実習
公認心理師を目指す学生は、受験資格を得るため、各種心理分野の施設における実習の受講が求められている。私が働く札幌少年鑑別所では、司法・犯罪分野に関する実習施設として、札幌近隣にある大学、大学院から学生を多数受け入れている。
これが意外に大変である。本年度は8か所の大学、 大学院から実習を受け入れた。もちろん実習当日は大変であるが、それまでに至る各所との連絡調整や準備にもそれぞれ時間を要する。しかも、このコロナ禍である。様々に制約が生じて思うようにならないことは多く、来所中止、リモート講義に変更といったことも頻繁である。
このように、実習への対応は楽ではない。正直、大変だ。
しかも、厚生労働省が 2020年に調査したところでは、主たる活動分野が司法・犯罪分野である公認心理師は、全体のわずか 3.8%であるという。私が実習で対応した学生も、ほとんどが医療や福祉など、司法・犯罪ではない分野で働くことになるのであろう。
しかし、である。たとえ大変でも実習を受け入れることには大きな意義があるのだ、 と私は思う。
近年、非行少年は質的に大きく変化した。「不良」は減り、「暴走族」「ヤンキー」は半ば死語となって、マンガや映画の世界のものとなった。代わりに増えたのは、 精神障害や被虐待経験を有し、医療や障害者福祉、児童福祉など、様々な分野で支援を受けつつ非行をした少年である。反社会性より非社会性が目立ち、障害者手帳を持っていたり精神科薬を服薬していたりするこうした少年たちは、司法・犯罪分野単独での働き掛けでは立ち直りが難しい。重要になるのは、我々少年鑑別所の心理職のほか、病院の心理職、 児童相談所の心理職がタッグを組むなど、分野を越えた広い網を作り、 得意なことを持ち寄りながら協働で関わっていくことであり、多機関連携は不可欠なものとなっている。
だから、公認心理師を目指す学生には知っておいてほしいのだ。全体で見れば少数派とはいえ、司法・犯罪分野でも我々のような多くの仲間が働いているという事実、 そして、各種分野の仲間と協働していくことの大切さである。
これらを知ってもらうことが、先々の協働につながるはずである。今の種をまく作業が、将来において非行少年たちの立ち直りにつながるはずである。
実習を受け入れることには大きな意義があるのだ。(田畑 賢太)