コラム
少年非行の劇的な減少
グラフに示されているようにここ20年弱の長期にわたり,少年非行の減少が続いている。
時代の大きな変化がうかがえる現象と思う。私が少年鑑別所に就職したのは,昭和54年(1979年)で,以降,平成31年(2019年)に大学教員を辞するまで,鑑別所・刑務所(約15年),警察の少年サポートセンター他で相談員等(約15年),教職大学院で生徒指導・教育相談を主に現職の教員に教える教員(約10年)と,約40年間,犯罪・非行,特に少年非行とそれに対応する心理臨床の実務と教育の世界で過ごしてきた。少年非行の第3のピークとされ,常に少年非行が大きな社会問題で,青少年の「健全育成」が叫ばれていた時期から,「ヤンキー」が死語となり「暴走族」が消滅し,特異な事件を除き少年非行の話題がほとんど出てこなくなった現在までである。その間,仕事の中心には常に少年非行があった。その少年非行が,平成15年から減少が始まり,平成25年には犯罪少年の刑法犯人口比が7.8人と,それまでの最小値であった昭和29年の8.2人を下回り,さらに,令和元年には,2.9人と20-24歳の3.0人より少なくなった。これは,昭和35年に犯罪少年の人口比が20-24歳を上回って以降ほぼ半世紀続いていた犯罪少年の方が20-24歳より非行(犯罪)の人口比が高い状態が終焉したということである。
第3のピーク(昭和58年前後)のころ以降「こんなに非行少年が多いと日本の将来がどうなるか心配だ」と言われていたのだが,もうそんなことを言うひとは皆無だろう。ちなみに,この指摘については,グラフを見ると,少なくとも将来,犯罪が増加するとの心配はあたらなかったことがすぐ判明する。人口比でピーク(18.8人)だった昭和58年の犯罪少年(14-19歳)は,当たり前だが6年後には全員成人し,元年の20-24歳にほぼ該当する。元年の20-24歳の刑法犯人口比(3.5人)は同年齢層の人口比として最小のレベルである。すなわち,最も非行が多かった世代が成人してみると最も犯罪が少ない世代になったということである(矢印)。それだけではなく,上記の半世紀の間,どの年の14-19歳の世代も成長して20-24歳になると犯罪を犯さなくなるという傾向が続いていた。
すなわち,非行・犯罪という面から極めて大雑把にいえば,この半世紀の間,日本の子どもは身近に非行を見聞きしたり自身が非行を経験して育ち,成人するとあまり犯罪を犯すことがなくなるという道筋で成長してきた。それが,近年は,ほとんどの子どもが,身の周りで非行を見聞きせず,自身も非行を経験しないで成人する時代になったと言えるだろう。そのような状況が,子どもたちの社会的成長にどのような影響を与えるだろうか。青年(20-24歳)や成人の犯罪は現在のところ増加の傾向はないが,今後どうなるだろう?また,子ども時代に非行を見聞きしたり自身経験していない青年,成人の犯罪に質的な変化はあるだろうか? (龍島秀広)