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地域の防犯

地域防犯を含む犯罪抑止に関する研究では,犯罪の発生について,加害者側の要因(パーソナリティ,生育歴など)だけではなく,実際に犯罪が発生する場面や状況,環境要因を重視する環境犯罪学が注目されています。環境犯罪学の基礎となる日常活動理論では,犯罪が「動機づけられた加害者の存在」,「格好の標的(被害者・物)の存在」,「有能な監視者(第三者)の欠如」という3つの条件が時間的,空間的に重なり合った場で発生するとされています。深夜,人通りのない駅前の駐輪場に鍵のかかっていない自転車が放置されていれば,その自転車は窃盗の格好の標的となります。しかし,日中,人通りがあったり,警察官がパトロールしているところでは,窃盗被害に遭う可能性は低くなるでしょう。つまり,犯罪抑止には,加害者が犯行をためらい,断念するような環境をつくり出すことが有効となります。この点で環境犯罪学の考え方は,今日の地域防犯の基礎になっているといえます。

全国の刑法犯認知件数は,ピークが2002年の約285万件で,この時期を境に全国各地で様々な地域防犯活動が展開されるようになりました。岩手県では,2003年に県警本部が実施した「犯罪のないまちづくり推進事業」の関連で地域防犯に関する調査研究会が発足しました。この研究会は,岩手県立大学の社会心理学,情報工学の研究者,各研究室の学生,私を含む警察職員などのメンバーで構成され,月1回のペースで勉強会が開催されました。調査研究は,県内で刑法犯認知件数が多い3箇所の交番の管轄地域を対象に効果的な犯罪抑止策を検討することを目的として行われました。研究会では,既存の犯罪統計や防犯活動資料の収集,防犯の視点からの現地調査による環境評価を行いました。また,情報工学系のツールである地理情報システムを活用し,犯罪発生場所を電子地図上に視覚化し,犯罪多発地域の抽出や犯罪と物的環境との関係を分析しました。その成果は,実際の防犯活動に反映され,本学会でも報告しています。

当時,このような地域防犯活動の実践や研究が全国で活発に行われたことが今日の刑法犯認知件数の減少に少なからず寄与したと思われます。地域防犯という身近な問題を通して様々な立場の専門家と交流できたことは,私にとって貴重な経験となりました。 (長澤秀利)

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