コラム
あおり運転
車間距離を極端に詰める、クラックションを執拗に鳴らすなどのあおり運転が問題になっている。被害者が死亡する事件までが発生しているのは、報道のとおりである。ドラレコの映像がテレビのニュースで使われたが、これらの映像が、被害の実態の理解に役だったことは確かであろう。妨害運転罪が新設され、10の類型が示されて、厳しい罰が科されるようになったところである。
私は、高速道路をよく利用するのだが、最近、あおり運転を目撃することが減ったような気もする。合理的選択理論によれば、罰が重くなり、検挙される可能性が高まると、人は犯罪をしなくなるという。環境犯罪学の理論によれば、監視者の存在が犯罪の発生を防止するという。ドラレコは、監視者の役割も果たしていると言える。
犯罪の発生を防止するのは、罰や監視者だけではない。計画行動理論は、人が行動を変える意図を持つかどうかは、その行為が悪いことだとの認識を持つことに加え、家族や友人などの周囲の人の規範意識の影響が大きいことを示唆する。以前には、追い越したいとの意思表示のつもりで、車間距離を詰める運転者が少なからずいたのかもしれないが、このような行為が許されないとの認識が広まった結果、あおり運転を自重するようになった人も多いのではないだろうか。
それでも、あおり運転は完全になくならないのかもしれない。これは、見たことのある構図である。例えば、飲酒運転がそうである。平成10年頃の飲酒死亡事故件数は1200件を超えていたが、最近では200件以下に減っている。罰が強化された影響も大きいが、飲酒運転事故で、被害者が大きな害を被っているとの認識が、社会に浸透したからだと思う。
しかし、この10年間、飲酒による死亡事故が、死亡事故の全体に占める割合は、ほとんど変わらず。飲酒運転をなくすことまではできないでいる。飲酒運転をやめない人には、個別の事情に応じた処遇が必要となる。注目されているのが、認知行動モデルであり、あおり運転の防止にも効果が期待できる方法である。例えば、相手に腹が立ったら、殴るしかない、などの短絡的な考え方と行動の習慣を修正することが考えられる。
我々の身近で起きている犯罪について考えてみると、犯罪心理学の教科書に載っている理論が重要な指摘をしていることがわかるし、犯罪の発生を防止するためには、様々な視点が必要なことも改めて理解できる。 (藤田悟郎)