コラム
海外における研究者と実務家
私はイギリスの大学院に留学し,国際学会へ参加することもありますが,この経験から感じることは海外(特に欧米)における犯罪学や犯罪心理学の発展と,研究者と実務家の近さです。
もともと私がイギリスの大学院に留学したのは,イギリスでは犯罪学や犯罪心理学のコースが充実しているという理由からでした。私が留学した当時は,現在と異なり,日本で犯罪学や犯罪心理学のコースを提供している大学や大学院はほとんどありませんでした。イギリスでは,大学教員と司法機関の職員が共同研究を行ったり,大学教員が司法機関からファンディングを受けて研究を行い,その結果を司法機関が政策に活かすという,今さかんに言われているエビデンス・ベイスト・プラックティスを実現しているようでした。また,個人レベルでも司法機関の方が大学院で勉強するのを散見しました。私が留学した大学院には,警察官のための犯罪学の修士コースが存在し,警察官が仕事をしながら受講しやすいようにカリキュラムが構成されていました。また,警察官などの実務家が博士号を取得し大学教員になるという場合も多く,私の専門とする捜査面接(取調べや事情聴取などの捜査における面接)の研究では,警察官や捜査機関出身の方が数多く活躍されております。彼らの研究は,現場の問題を意識した研究が多いので非常に面白く,また,実務に活かしやすいという共通点があります。
また,今年参加した捜査面接に関する国際学会は,ノルウェーの警察学校で開催されました。ここでこの学会が開催されるのは,9年ぶり2度目です。世界中から来た参加者たちは5日間,警察学校の宿舎に寝泊まりし,学会に参加しました。学会では,大学等の研究者だけではなく,裁判官や警察官などの実務家が参加し,学会発表を行っています。また,お互いにネットワーキングをして,共同研究などのアイデアを出し合ったりしています。国際学会が警察学校で複数回開催されることには驚きますが,毎年多くの実務家が参加し,研究発表をすることも非常に興味深いです。
このように,海外では,実務家が研究に積極的に関与し,研究及び実践が発展していく様子がみられます。日本でも,研究者と実務家の距離が近くなり,お互いが協力して,実務に生かせる研究を発展させることができたらいいと思います。(和智妙子)