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司法・犯罪の専門家が「遥かなる山の呼び声」を読み解く

映画「遥かなる山の呼び声」(山田洋次監督)では,最後のほうで,高倉健演じる主人公田島耕作(以下,耕作)が傷害致死事件により懲役2年以上4年以下の不定期刑を言い渡される。当時の法律では不定期刑は判決言い渡し時に20歳未満でなければ適用できない。つまりこの映画の中では,耕作は裁判時に20歳未満でなければならないし,その前の出来事である妻の自殺,傷害致死事件,風見民子(以下,民子)との出会い,そして逮捕も全て20歳未満のときになる。ところが耕作は逮捕の前日,民子に対し,2年前に妻が自殺し,その葬儀の際に傷害致死事件を起こしたと告白している。男性の場合,結婚できるのは今も当時も18歳なので,妻が自殺したとき耕作は18歳以上でなければならない。仮に18歳だとしても,民子に事件のことを告白したのがその2年後だから,裁判での判決言い渡し時には20歳以上になってしまう。

耕作が言った2年は「足掛け2年」であると考えてみる。そうすれば事件は逮捕の1年数か月前でよく,判決言い渡し時に20歳未満であり得る。仮に耕作の誕生日を3月頃とすると,事件は昭和50年6月に起きているから,そのとき耕作は18歳,そしてその後逃亡し19歳になった翌年春に民子の牧場に現れて一旦去り,夏に再び訪れてそこで働くようになり,9月頃に民子に「2年前」のことを告白し,翌日逮捕,その後家裁で逆送となったあと,事実を全て認めたため裁判が早く終わり20歳になる前の昭和52年1月頃に判決を受けたと考えることができる。

映画では耕作の事件が実名で報道されたため兄が職を失った話が出てくる。18歳のときの犯行であれば実名報道は禁止(今でも公訴が提起されていなければ禁止)の筈であるが,それでも報道されたのは耕作が逃走し指名手配を受けていたので,日本新聞協会の少年法第61条の扱いの方針が適用されたのだろう。また,民子の息子が耕作のことを「おじさん」などと呼んでいるが,これは小学生の目には大変な苦労をしてきた耕作が相当年上に見えたからと思われる。

このように不定期刑が言い渡されたことを前提に考えれば,事件を起こしたとき耕作は18歳である。妻は死亡時32歳なので耕作は14歳年上の女性と結婚していたことになる。彼は幼いときに両親を失っているので,妻に母親の代わりを求めていたのかもしれない。そうなると耕作の民子への思いには母性への憧憬が含まれていたと考えることができるかもしれない。(岡本英生)

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