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シンポジウムの思い出

犯罪心理学会の発表といえば、犯罪者・非行少年等の特性、アセスメント、処遇(検証も含む)というテーマが中心である。にもかかわらず第50回大会(2012年)、「面接法再考-犯罪者、非行少年に向き合う」という、かなり勇気のいるテーマのシンポジウムを企画した。当時、再犯リスクをアセスメントし、その所見を処遇選択にも生かすというシステムがほぼ定着した一方、数量化された客観的指標の偏重、面接のマニュアル化が加速するあまり、犯罪者・非行少年に臨む面接者自身の在り方が顧みられなくなることを私は危惧しており、面接の根底にある基本姿勢や構えに立ち返る場を設けてみたい思いに駆られていた。その年の会場は大正大学であり、親交のあった同大学の村瀬嘉代子先生に相談してみた。すると、先生は厳しい口調で「学会員でない私が意見する立場にない。あなたが必要と思えばやればよい。私は何か間違ったことを言っているか!」と私を叱責した。すっかり意気消沈した私は、当時同業者で、かつその仕事ぶりに敬意を抱いていた門本泉氏(本コラムの執筆依頼者)に協力を求め、断られたらきれいさっぱり諦めるつもりで話を持ち掛けた。すると、これまでほとんど面識がなかったにもかかわらず、あっさり了解いただき、後には引けなくなった。

当日は、矯正領域から前出の門本氏が「出会いの場における暗黙の知」、精神科医の立場から青島多津子氏が「加害者を受け止めるということ-面接再考」、司法領域から須藤明氏が「面接という出会いの場を成立させるもの-Double Roleを越えて」というテーマで示唆に富む発言をいただいた。詳細は学会誌に譲るが、当初の心配をよそに満員の会場は、その語りに引き込まれていた。後方にはかなり厳しい形で私の背中を押してくださった村瀬先生もおられ、しめくくりのコメントいただいたとき、フロアの目を意識し平静を装っていたが、心の中ではうれし泣きしていた。

あれから12年が経過し、村瀬先生も本年1月2日に永眠された。横綱と幕下ほどの実力差がある私だが、若い世代に何かを伝えられる時間は残り少なくなった。何かを探求してみたい、多くの人と論考を重ねたいとの思いが込み上げてくるは、専門職としての成長過程での「然るべき時の訪れ」を意味すると今となれば思う。「自分などが…」などと臆することなく、是非とも信じる道を切り拓いてほしい。(鉄島清毅)

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