コラム
指導者・支援者への支援
拘禁刑の施行を来年6月に控え,今後受刑者に対する矯正処遇がますます充実化することが期待されています。もちろん,これまで以上に多様な対象者に対するプログラム開発は大事ですが,そのようなプログラムが期待されるとおりの効果を持つためには,プログラムが開発された背景や,その中の個別の働きかけの意味を正しく理解している指導者の養成も欠かせません。プログラムと指導者は言わば車の両輪と言えるでしょう。
また,プログラムの実効をより上げるには,受刑者と指導者との関係が良好である必要があるということもよく言われます。そのためには,当然のことですが,指導者が対象である受刑者と真剣に向き合う必要があります。受刑者はそのような「本気の」指導者の姿を目の当たりにして,プログラムに真剣に取組むことになります。
一方,指導者は受刑者に真しに向き合えば向き合うほど,その心身にかかる負担は一層大きくなります。指導者が心身ともに健康な状態で指導を行い,プログラムが効果を上げ続けるには,指導者に対する援助は欠かせません。これも心理等の専門家の重要な役割になります。
犯罪者を対象とした指導者の心の負担についてはこれまで色々な研究がなされています。欧米では,特に性犯罪者の指導担当者にどのような心の負担が生じ,それにどう対応すべきかについて盛んに研究されています。例えば,女性の指導者の負担については,そもそも同僚の指導者や上司に男性が多く,指導に関する悩みをうまく共有したり理解してもらえにくいことや,指導の一環として男性の犯罪者の犯行の様子を聞く過程で,自分自身があたかも犯行時の被害者と同じような感情を持ち,身体の状態を疑似体験する代理受傷という症状が起こることなどが指摘されています。
このような女性の指導者に対しては,同じ立場にある同性の指導者と,悩みやそれを解消するために各自が個々に行っている方法を共有する場を設けることが大切だと言われています。また,同じ職場で働いている男性の同僚や上司に対して,女性の指導者がこのような状態にあることを理解してもらい,その人たちができる限りの配慮や援助を行う姿勢を持つようにする必要もあります。もちろん,こういった指導者同士の話し合いや,同僚や上司への啓発は男性の指導者に対しても有効です。このようなことを指導者が一堂に会する研修等で扱い,できる限り指導者の負担を軽くするのは大事なことです。(浦田洋)