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書籍紹介
人工妊娠中絶の心のケアに関する書籍紹介
今回は、管生聖子氏による『人工妊娠中絶をめぐる心のケア-周産期喪失の臨床心理学的研究』(2022年3月15日発行、大阪大学出版会)を紹介いたします。この書籍は、対象者の人工妊娠中絶に関する聴き取りを行う上で、知っておきたい大切な情報が多く掲載されている貴重な資料です。
私は少年鑑別所の法務技官として長年、勤務する中で、在所者から妊娠や中絶の経験を聞き取ることが多くありました。特に、人工妊娠中絶にまつわる経験は、当人にとって、人生の分岐点になるような非常に重要なエピソードで、大きな心の傷になっている場合もあり、当人の今後のためにも丁寧に聴き取ることが大切なときがあると感じてきました。しかし、こちらが聞くことをはばかられ、在所者から十分に聴き取ることができないことが多くありました。
少年鑑別所や刑事施設で心理職として勤務するときには、多くの在所者や被収容者の女性から、人工妊娠中絶にまつわる話を聴き取ることになる一方で、そうした聴き取りの上で参考となる、人工妊娠中絶の体験者の実際の語りや、その心のケアに関する書籍にはなかなか出会うことがありませんでした。
本書は、周産期の喪失体験、特に、これまで語られることが少なかった人工妊娠中絶をめぐる体験の心理臨床に関する書物です。
前半部は、周産期にまつわる事柄について、法律的側面、歴史的側面、科学的知見に至るまで、幅広く丁寧に整理されています。その次に、周産期の喪失体験を、トラウマと悲嘆といった臨床心理学的な観点から見直し、心理支援に応用可能な理論的考えが記されています。
後半部は、人工妊娠中絶を経験された方の語りや、人工死産経験者の交流会の様子等、実際の声が記されています。そうした記載を通して、周産期の喪失体験にまつわる心の傷のケアの可能性について考察されています。
この書物は、人工妊娠中絶の心のケアに関して、道標を示してくれるものと思います。現場での実践の参考として一読いただき、対象者の心身のサポートの一助となれば幸いです。(中島賢)